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第十九話 皇帝の後悔

last update publish date: 2026-08-27 09:40:06

 紅蓮楼から後宮へ戻る道で、私は一度も喋らなかった。

 喋れば、口から毒の匂いが出そうだった。

 白家の香。

 紅蓮楼の苦い煙。

 灰壺に隠されていた黒い小袋。

 皇后様を殺す手順が書かれた文書。

 偽造された皇弟府の印。

 そして、景蘭の声。

 ――次は宮中だ。兄上に伝えろ。死んだ弟が帰ってくる、と。

 供車の車輪が石畳を鳴らすたび、その言葉が頭の中で跳ねた。

 私は、膝の上で両手を握っていた。

 右腕には老医官に塗られた薬の匂いがまだ残っている。沈烈に掴まれた痣がじんじん痛む。けれど、その痛みすら今は遠かった。

 向かい側に座る黎星様は、文書と毒袋を収めた箱を抱えていた。

 箱には封がされ、蓮貴妃様の女官と内侍省の者が証人として印を入れている。

 証拠。


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